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踊るH2 THE MOVIE3

前作から半年、最後にして最悪な事件が起こった!


グリルニックと悟兵衛は独立して事務所を開いていた。
その事務所、G&Gにある日、一本の電話がかかる。



『ゴルフェニックは預かった』

「利子は!」

『詳しい事は追って連絡する。なお、警察に通報した場合…』

「マジですか!?」



グリルニックの最愛の子供、ゴルフェニックの誘拐事件。


「身代金を持って言われた通りの場所に来たぞ!」

『結構。では、その場でストリートコントをやってもらおう』

「台本取りに帰っちゃ駄目か?」

『こちらの要求が呑めない場合、残念だが…』

「やるよ!やればいいんだろ!?」

『お前の相方はどこにいる?コンビでコントしろ』

「くッ…」



「おいちゃん、こちらの動きが読まれてる。戻って合流してくれ」

≪G2了解。これより合流する≫



正体の読めぬ犯人の要求に振り回される二人。
疲労は募るばかり。



『身代金のバッグはそこに置け。置いたらその場から離れろ』

「わかった」

(大丈夫、犯人はバッグを取るために姿を見せる。そのときが勝負だ)


二人はその場から離れ、様子を窺う事にする。


「すいません!ルニ兵衛のお二人ですよね?」

「え?あ、はい。そうですよ」

「やっぱり!サインもらえますか?」

「ええ、いいですよ」



気が付くと二人はファンに囲まれ身動きが取れなくなっていた。



「バッグは?バッグは見えるか!」

「駄目だ!全然見えないよ!!」

「完全に動きを読まれちまった!チクショウ…」


事務所でグリルニックは肩を落とし、遺書を書き始める。


――ゴルフェニックを取り戻せなくてごめん。
  以後の朝の日課は悟兵衛のおいちゃんが引き継ぐから
  いつもどおりに玄関に生ゴミとか出しておいて


「なんでやねん!それよりまだ手はあるぞ、グリちゃん」

「気休めならいらないよ」

「バッグに発信機が付いてる。念のために、札束の隙間にもな」

「早く言えよ!!」

「待て!首を絞めるな、落ち着け」


「それで重要な話があるんだが、発信機に対応した受信機をなくした」


グリルニックに発明の神が舞い降りた。
受信機を瞬く間に作り上げてしまう。


「反応アリ!待ってろ、ゴルフェニック!父ちゃんが今行くぞ!!」


犯人の潜む廃屋へ乗り込んだ二人。
そこは謎の新興宗教の秘密の集会場だった!
幹部らしき男が出てきて二人に向かって言う。


「去れ!あの赤子は我らの神がこの世にもたらした救世主なのだ!!」

「救世主の親も崇めろ!」

「救世主の血縁など缶ジュースのプルタブのようなものだ!!」

「な、なんだと!?」

「つまりあれか?中のジュース=救世主を世に出すために必要だが
 それ以降はどうでもいいと」

「理解が早くて助かるよ。どうだね、悟兵衛君。
 我が教団に入団する気はないかね?」

「幹部待遇か?」

「おいちゃん!?」

「もちろん」

「では断る。俺は生涯一兵卒。常に笑いの最前線に立つ!」


幹部が合図をする。
一斉に二人に襲い掛かる信者たち。


「我らの教えが分からぬ愚か者どもめ!」

「やかましい!子供と銭を返せッ!!」

「嫌だ!あれはもう僕のもんだッ!!」

「お母さんに言いつけるぞ!」

「えっ?」


大きくなってもお母さんは怖いらしい。


「ここは俺が引き受ける。
 グリちゃんはゴルフェニックを連れ戻して来い!!」

「死ぬんじゃないぞ、おいちゃん!」

「無理だ!」

「分かった!」


グリルと幹部の追いかけっこ30分、
ようやく二人は決着をつけようとしていた。


「覚悟はいいか?」

「逃げてばっかのくせに生意気だぞ!」

「うるさい、白鳥乱舞はあの全力疾走の間に攻略法を見つけたぞ!」

「そんなことアリかよ!」

「劇場版はいつもより弾けるのがお約束だッ!!」

「それなら納得だ!!」



時の流れが停滞した瞬間、二人が同時に仕掛けた。


「白鳥乱舞!」「黒鳥天舞!」


「……白鳥乱舞は既に過去の技なのだよ」

「ぐあっ!」

「分かったら素直に我が教団に多額の出資を行うと契約書にサインをするんだな」

「負け、なのか…?」


「グリちゃん!」

「おいちゃん…?」


頭をめぐらして声の方へ顔を向けるグリル。
そこには、最愛の妻の姿が。


愛のパワーで体力がキャラメル一粒分回復した!(一粒で300メートル)


「まだだ!愛のパワーは無限大ダーッ!!」

「むぅ…なんという力だ!だが、何度でも叩き潰してやろう!」

「てやーッ!!」

「白鳥乱舞は既に見切っていると言ったはず……ッな!?」


「真 ・ 白 鳥 乱 舞 !」


「素晴らしい力だ。救世主たるお前の子供は保育園に預けている。
 迎えに行くといい……」



この後、保育園から親子仲良く家路に着くグリル一家の姿があった。



「おいちゃんお待たせ」

「よっ、来たな」

早朝、ひなげしの丘球場にグリルニックと悟兵衛の二人だけがいた。


「やはり行くのかい?」

「ああ、今のままじゃグリちゃんとの差を埋められそうにないから」

「そんなことは…」

「でもな、野球の腕前はまだまだ負けちゃいないぜ?」


悟兵衛は足元に置いたカバンを示した。


「修行の旅に出る。今日、朝一の船便で」

「……」

「勝負する時間はちゃんとあるだろ?」

「分かったよ、全力で投げてやる!」

「そう来ないとな…!」


バッターボックスに悟兵衛が立ち、ピッチャーマウンドにグリルニックが立つ。


「一球で決めちゃうよ」

「一球で決めてやるぜ」



グリルニックが大きく振りかぶる。


――おいちゃん、戻ってくるよな…?



悟兵衛がバットを握る手に力を込める。



――ゴルフェニックが成人する前に戻ってくるさ、必ずな!



白球がグリルニックの手を離れる。そして……







踊るH2 THE MOVIE3  完


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