戻る

H2 まさかり村の秘密 


「自分が自分で無くなる恐怖」

「忍び寄る漆黒の闇」

「顔が違う」

「声が違う」

「何もかも変わってしまう……」




300年前から変わらず行われている冥雀祭。
ここ、まさかり村では、村を荒らしていた百鬼夜行を冥府へ導き、
封印した雀を、神として崇めている。
キムチを額に貼る行為が鬼を目覚めさせる。
それがこの村の言い伝えだった。




「あれ、おいちゃん、おいちゃんじゃない?」

「あ……!グリちゃん!? どうしたんだい、こんな所で!」

「ああ、この近くの温泉に湯治に来ていたんだ。
 そうしたらお祭りがあるって言うからさ」

「そうか、グリちゃん野球のやりすぎで肩痛めたんだったね…」

「おいちゃんこそどうしたのさ?」

「ああ、実は、ここだけの話だけど、ここに埋蔵金が埋まってるんじゃないかってね」


そう言って悟兵衛はグリルニックに地球儀を見せた。
丸い地球儀の一カ所に、赤い点が付いている。

二人は顔を見合わせ頷いた。
頭の中に浮かぶは山分けの文字。





土木作業3日目。
既に、山の中を大分掘り進んでいる。
しかし、いっこうにそれらしいものは出ない。

半ば諦め駆けたその時、悟兵衛が何かを発見した。

「これは、鉄製の雀の置物……」

「おいちゃん、こっちに鬼の像があるよ!」

「この村の神様だ。何かをお供えした方が良いな」

「ここにちょうどおやつのキムチが」

グリルニックはツボの中からキムチを取り出そうとして、
手を滑らした。

赤い斑点が、顔に無数付く。
そして近くにいた悟兵衛の額にキムチが貼り付いた。


「な、なんだっ……!!?」

「地震!!? でかいぞ!!」


『うわあああああああっ!!』

二人は今まで自分たちが掘っていた洞窟を転がり落ちる。
それは何時間もの長きに渡ったような気がした。
ごつごつの地面が二人の体を傷つけ、意識を遠のかせる。




「ん………」

「おお、気が付きなすったかね」

「ここは…?」

「村長の家じゃよ。倒れておったから運んできたのじゃ」


「そうだ!おいちゃん、おいちゃんは何処に!!?
 これこれこういう顔の人なんだけど!」

グリルニックの問いに村長は怪訝な顔を浮かべる。

「それはお主じゃないか、落ち着きなさい」

グリルニックは言われてきょとんとした。
そしておそるおそる手鏡を見る。

そこに写っていたのは悟兵衛。

「連れなら、隣の部屋に寝かせておるぞ」

その言葉を聞いてグリルニックはすぐにふすまを開けた。
そこにいたのは、紛れもなく自分だった。
いや、自分の顔をした悟兵衛だ。

「自分が目の前に……グリちゃん!?」

二人で洞窟の中の長い階段を転がっている間に
入れ替わってしまったらしい。
悟兵衛は驚愕の瞳でグリルニックを見つめた。


「くっくっくっく、戸惑っていることだろう」


「誰だ!!」


振り向くグリルニック。
後ろに立っているのは村長だった。
村長の頭が裂け、中から長い爪が出てくる。


「お前はカルタ星人!!」

「お前等が復活させてくれたのだよ。長い年月だった…
 宇宙戦争では仲間が世話になったようだな」

「しぶといやつらめ!!」

「グリちゃん、このカルタ星人今までの奴らとは違う!!」

そう、鬼として封印されていたカルタ星人は、
普通のカルタ星人の何倍ものパワーを持っているのだ。


「体が違うから闘いにくいだろう。今殺してやるからな」

カルタ星人はそう言って二人に近づく。
意識は同じでも体が違う。
二人は思うように動けなかった。


「カルタビーム!」


『うわあああ!!!』


「カルタクラッシュ!」


『うわああああ!!!』


「カルタアーモンド!!」


『うわあああああっっ!!!』



倒れる二人。

「おいちゃん……あれしかない……」

「グリちゃん……手を……」


二人は人差し指を合わせる。
すると、まばゆい光が辺りを包んだ。


「な、なんだ!!!?」


カルタ星人が見た物は、1人の男だった。
二人がダブってみえる。

「フュージョン戦士、悟ニック兵衛!」

「馬鹿な!フュージョンを会得しているのか!!?」


カルタ星人が狼狽する。
いくら体が意識と違えども、フュージョンしてしまえば同じ事。
形成は大逆転だ。


「行くぞ! 白鳥円舞〜極楽鳥の雄叫び〜サンバ!」


悟兵衛とグリルニックが同時に言いたいことを喋ろうとする為、
よくわからない必殺技の名前が口からこぼれた。


「う、うぎゃやあああああ!!!」

でも大丈夫、やってることは白鳥乱舞だ。






こうして、まさかり村に平和が戻った。


「グリちゃん……」

「最後の、白鳥乱舞、おいちゃんと一緒に出来て嬉しかったよ」


肩を限界まで使っていたグリルニック。
医者に最後の一回と念を押され、使用を控えていたのだが、
今回の戦いで白鳥乱舞を使ってしまった。

悲しげではあるが、どこかさっぱりとした表情のグリルニックは踵を返す。

「大丈夫だよ、グリちゃん。使ったのは俺の体だろ」

「え?」

元に戻ったグリルニックは肩をぐるぐると回す。
痛みは、無い。

「おいちゃん!!?まさか…!!」

「使わなかったよ。グリちゃんの肩は。
 気合いで、足から白鳥乱舞を出してやった」

その言葉に、グリルニックは涙ぐんだ。

「目から汗が止まらねぇや!!こいつぅ!!」

「はははは、大の男がみっともねえぞ!」



二人の涙を、夕日がいつまでも照らしていた。




END



戻る



















.